ストーンメルテッド ~すべての真実~
2
 処刑場のなかは、長い沈黙が流れていた。重々しい沈黙の空気を、初めに破ったのは、女王であった。

「そなたのストーンは今日で完成のはず。カゲンが戻るまでの間、取り返してきてもよい」

 岩のように立ち尽くしていたエンデュは、肩ごしに女王の方を振り向いた。

「……分かりました。すぐ、取り返して参ります」

 そう言うや、エンデュはジュノの方に後ろ姿を見せ、処刑場から去っていった。
 人間界へ赴くまでに、そう時間はかからなかった。
 高松理子(たかまつりこ)は、新鮮な空気を吸おうと学校の屋上へ足を踏み入れていた。校内は、空気どころか、人々までもが汚れているように感じてならない。たとえば、何故そんなことを皆は口に出してしまうのだろう? (悪口や、人が傷つく言葉のこと)とか、逆に考えれば、何故私は周囲の人間より考え方が大人びているのだろう? とも思ってならない。だが、そんなことはどうでもいい。そう思ったのは、背後に記憶のある足音が聞こえてきたからである。

「やはり、ここにいたか」背後の男はそう言った。

「もちろん」

 理子はそう答え、振り返った。

「悪いが時間がない」

 男――エンデュは、歩み寄りながら言った。

「なぜ?」

「友人が処刑場に捕らわれている」

「では、なぜそうなったの?」と、理子はたたみかけて言う。

「闇の精霊・封印の扉が解かれ、国はめちゃくちゃだ。それは邪悪な精霊で、封印を解いてはいけなかった。封印が解かれた原因は、俺同様に力を失っていた闇の女神の影響だと女王は考えた。……しかし、もう一人の勇敢な友人が、日が沈むまでには、扉の封印を解いた犯人の証拠を掴むだろう。それまでの辛抱だ」

 息を吸って、エンデュは言った。

「最後の最後に、すまない。すぐ戻らねばならない。だから、今すぐにストーンを取り戻す必要があり、来たのだ」

「そんなに一大事なら、しかたないね。……分かったわ」

 理子は、眉を下げながらそう言った。

「ありがとう」

 エンデュは、理子の胸元へ手をかざした。すると、瞬く間に青いオーロラが現れ、彼の手のなかへ吸い込まれていった。
 処刑場に捕われた闇の女神の顔は蒼白で、血の気もなかったが、扉が開く音を聞くや顔を上げ、安堵した。エンデュが戻ったのである。
 だがエンデュの方は、まだ安心しきることは出来なかった。万一、カゲンが証拠を掴めなければ、この手で、彼女を死なせなくてはいけなくなるのだから。
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