臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 ダッキングしながら前に進む白鳥だったが、一向にパンチが出ない。

 彼は、頭の位置を変えながらパンチを打つのにまだ慣れていないようである。

 だが、飯島はその事を言わずに黙って見ていた。


 二人の距離が近くなると、大崎はパンチを出し始める。白鳥も、それにつられたように応戦した。

 前へ出る白鳥と、元来好戦的な大崎とはスパーリングで打ち合いになる時が多い。

 飯島は、最初のスパーリングこそ打ち合いを残り三十秒に限定していたが、次のスパーリングからは自然に打ち合う二人を見て、最初から打ち合う事を許可するようになっていた。


 ただ、打ち合ってはいるが、相手の体に当たっているのは殆んど大崎のパンチである。ヒットするのはボディーブローが多い。

 離れている時は、飯島のアドバイスを意識して膝を曲げる白鳥だったが、打ち合いになると余裕が無くなるようで、膝が伸びて上半身も立ち気味になっていた。
< 171 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop