臆病者達のボクシング奮闘記(第三話)
 オーソドックススタイル(右構え)の森谷は、左グローブを胸の高さで前へ出し、緩急をつけて不規則に動かす。

 利き手の右グローブは、右のコメカミにピタリと付けて全く動かさない。

 但し、その右グローブは対峙している康平に向けられている。

 康平は、常に右パンチを狙われているような気になり、パンチを出そうにも出せない状態になったのだ。

 開始から二十秒程経った時、様子を見ていた飯島が言った。

「森谷、お前から先に打ってやれ」


 森谷の左ジャブが伸びる。

 スピードの無いパンチだったので、康平は右グローブでブロックをした。


 森谷は、戻した左グローブを大きく動かした後、再び左ジャブを放つ。

 今度は速いパンチだった為、康平のブロックが遅れて顔面にヒットした。

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