はじまりのアリス


「田上っ!」

慌ててその手を掴もうとしたけど間に合わず、放送室の天井には人工的に開けたとは思えないほど、人がひとり通れるぐらいの深い穴が開いていた。

穴の中は真っ暗でもう田上の姿はない。


……なんだよ。今の。それに……。


「うわああああ」

すると今度は後ろから悲鳴が聞こえてきて、江口が首を押さえていた。

そこからは血。

押さえている手も洋服も流れる血で真っ赤に染まっていた。


「痛い、切られた、首を……っ」

顔面蒼白の江口の後ろにはひとつの人影。

右手に刃物を持って、ゆらゆらと不規則に揺れている。


「てめえ、誰だ?」

諏訪野がバットを構えた。


うつ向く顔は静かにこっちを向いてそれを見た瞬間、足がガクガクと震えた。

そこにいたのは両目がくりぬかれて黒いふたつの穴が空いた顔。生気はない。だけど口元は笑っている。

しかも、それは……。

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