想いを伝えるその日まで
第一話·黒田の話

 小さな言い争いのきっかけは、彼女――鈴木奈由(すずきなゆ)が読んでいた本にある。

 俺が鈴木家に遊びに行った時、鈴木家にはアルバイトが休みだった奈由しかいなかった。さらに奈由は受験勉強を休み、リビングで読書をしていたらしい。
 大学を一年浪人した奈由は、パン屋でアルバイトをしながら受験勉強をする、という生活を送っているのだ。

 俺がリビングに上がると、奈由は開いて置かれていた本を手に取り、パタンと閉じて

「この本、とても素敵なんです。恋人がほしくなります……」

 そう言ったのだ。

 俺の心臓は鼓動を速めた。
 奈由が恋愛の話をするのは珍しかったし、それに、好きな相手のそんな話は胸をざわつかせるものだ。


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