臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 康平が訊いた。

「何で鼻に詰めてんだ?」

「……これで鼻声になるだろ」

「お前、仮病だったのかよ?」

「……日曜日までは本当に引いてたんだけどな」


 健太は、頭を掻いた後に話を続けた。

「怖くなったんだよ。月曜日にスパーをしたら、また倒されると思ってな」

「月曜日は先輩同士のスパーで、結局俺達はしなかったんだよ」

「……そ、そうなのか?」


 小さく笑う康平に健太が言った。

「康平、何ニヤついてんだよ」

「お前もシャドーをしてたんだから、先輩が勝ったのを見て、またヤル気が出たんだろ?」

「……ヤル気になったと言うより、恥ずかしくなったんだよ」

「恥ずかしい?」

「……電車に乗ったら話すよ」

 健太は改札口を通り抜けた。

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