臆病者達のボクシング奮闘記(第四話)
 そのうちに、青葉台高校の選手達もウォーミングアップを始めた。


 裕也のシャドーボクシングを見て、清水が言った。

「兵藤、アイツが坂田だろ?」

「あぁ、そうだよ」

「お前にはブルファィター(猛牛のように突進していくボクサー)だって聞いてたんだが、随分印象が違うな」

「……そうだな」

「シャドーじゃストレートしか打ってねぇし、どう見たってボクサータイプ(離れて戦うタイプのボクサー)じゃん」

「お前は試合を見ていなかったからな。実際に戦うと全然下がらねぇし、距離が近付けば躊躇なく右を強振してきたんだよ」

「……まぁ、お前は実際に戦ったんだからな。それにしても、窮屈そうなフォームだな」

「アイツ、国体予選の時は出場しなかったんだよ。会場でその事を訊いたら、フォームを固めるからって言ってたっけな」


 兵藤が言い終わると、二人はさりげなく裕也の動きを観察していた。

< 88 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop