今年の夏休み
終業式、生徒達は浮かれて教師達はピリピリしていた。

開放感いっぱいの思春期真っ只中の連中を野放しにしてもろくなことはない。
部活、補修、繁華街の見回り、事務作業…
先生達に夏休みはなく、むしろ夏休みなんて無い方がいいと思ってる。

けどそんなの知ったこっちゃねぇ。
大量の宿題と引き換えにこっちは約2ヵ月の自由を手に入れるのだ!

ホームルームも終わると、笑顔でみんな帰っていく。
カバンの中の通知表なんかお構いなしだ。

廊下に設置されてあるロッカーから
持って帰らなければいけないものを引っ張り出していたら
後ろから「富永くん」と呼ぶ声がした。
振り返ると帰り支度を終えたワタナベが立っていた。


「ね、メアド教えて?」
「何?いきなり」
「夏休み準備しないといけないでしょ?連絡とることもあるだろうから」
「あ、あぁ…んじゃちょっと待って」


カバンの中からルーズリーフを1枚取り出し、
携帯のメールアドレスを殴り書きしてから
「読める?」と手渡した。

ワタナベは、近すぎるくらいにそのルーズリーフを目に近づけ、
「なんとか」と言った。


「私のアドレスは、あとでメールしとくね」


ワタナベはそう言って、
「バイバイ」と手を振った。

愛想がいいのか悪いのか分からないワタナベは、
俺が何か言うのを待っているかのようで
何か返さなきゃ、と思ってわいも「バイバイ」と言った。

間抜けだな、と思いながら。
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