佐藤くんは甘くない
佐藤くんとコクハク
照明が落とされ、二人の影だけが残る。
ゆっくりと緞帳が下ろされ、すべて閉まった後体育館中が、はち切れんばかりの拍手で埋め尽くされる。
その音ではっと我に返る。
その拍手は鳴りやむことを忘れたかのように、ずっとずっと体育館に響き渡る。
周りを見渡すと、クラスメイトの女の子たちが肩を寄せ合って、その反応に泣いてしまっている子もいた。
自然と視線が、動く。
……彼は、どうしているだろう。
薄暗い視界の中、私の視線は舞台の真ん中に向けられる。
佐藤くんは、ぼうっと宙に視線を泳がせたまま、額から流れる汗をぬぐって、肩で息を繰り返しながら、茫然と緞帳の向こう側で聞こえる拍手に耳を傾けていた。
そんな佐藤くんの横顔から視線が離せなくなる。
……ああ、もう、かっこいいなぁ、くそう。
ぎゅうっと胸が締め付けられるように、甘い痛みがやってくる。私はそれを閉じ込めるように、服の上から胸元に手を当てた。
「ハル、最後のナレーション!」
肩をたたかれて、私は小さくわ、と声を漏らして後ろを振り返る。
そこには、予定表を手に持った恭ちゃんがせわしなく、マイクを指差しながら立っている。
そうだった、私最後にナレーションするんだった……!