佐藤くんは甘くない


恭ちゃんからしてみれば、私はどれだけ滑稽だったんだろう。それでも、私に合わせてくれたことには感謝してもしきれない。



「いやだなぁ……」

涙をこぼすのも、弱音を吐くのも。


全部が、嫌だった。
だってそれは、私がまだ───まだ、佐藤くんのことを好きだと、思い知らされてしまうから。


両腕で、顔を覆い隠し、私は唇を噛みしめた。涙ひとつ零してやるものか。私は、佐藤くんの友達でい続けるって決めたんだ。それだけは、崩せない。守り通したい。


たとえどれだけ、自分の思いを犠牲にしたとしても。


ぎい、と扉の開く音がした。


とん、とん、と私に近づく音がして、足音がやむ。きっと、恭ちゃんだ。飲み物を買ってきてくれたんだろう。

私は、そっと、小さな声で恭ちゃんに語りかける。

「……きょう、ちゃん」


返事はない。それでもかまわず、私は言葉を続ける。


「わたし、まちがって、ないよね。こんなにくるしくたって、いつかは───ちゃんと、ふたりの幸せそうな顔ををみたって、えがおで、おくりだして、あげられるよね……っ」


ぽろり、と頬から冷たいものが伝う。

きっと、これは涙なんかじゃない。



「さとうくんに、きょうちゃんとの仲を応援するって、言われちゃった。そう、だよね。そっちのほうが、いいよね。そっちのほうが、みんなしあわせに、なれるよね。でも、また、恭ちゃんを傷つけちゃうの、やだなぁ。

 ねえ……恭ちゃん? ううん。

 ……分かってる、分かってる、分かってる、分かってるよ……っ分かってるもん……!


 こんな気持ち、ないほうが、いいに決まってる。でも、忘れようって思うたび、心が苦しい。痛くて、痛くて、張り裂けそう……っ」



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