方言男子に恋をした
「何かあるんやったら聞くで」


佐久間課長はそう言いながら、ニコリと微笑んだ。

は、腹立つ!
何その余裕そうな顔は?

何かあるんやったら?
あるに決まってるじゃない‼︎

そう言ってやりたかったが、佐久間課長は一応でも上司。
だから失礼なことは言えないという真面目な気持ちがあった。

ああ、自分の性格が恨めしい。


「そういや仕事は?終わったん?」

「あとちょっとですけど」


そう言いながらパソコンに向き直した。
しかし視線を感じる。

視線の先を見ないよう問いかけてみた。


「あの、見られてるのはあまり好きじゃないんですけど」

「松田」


そう呼び捨てにされて、不意に心臓がキュンとした。

…いやいや、何のキュンなのよ。
何故キュンとしたのよ私。


「な、何ですか」

「時間外」


詰まりながら答えると単語のみの返事が返ってきた。

つまりは敬語無しに課長呼びも無しにしろと。

仕方ない…どう足掻こうと結果は見えている。それならば素直に従うしかない。


「…あまり見ないで。集中出来ないから」


視線をパソコンに向け、佐久間課長…いや佐久間を見ないようにして言った。

何だか直接見て言うのは恥ずかしかったから。

そんな私に佐久間は「はいはい」と言いながら自分のデスクに戻って行った。



あれ…帰らないんですか?
私に食事を渡すのが目的だったんでしょ?
だったら何故今現在もいるんですか?

そんな問いかけも出来ず、結局佐久間と退社する羽目になったのであった。
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