大好きな君へ。
「おん、あろりきゃ、そわか」
所作の後で聖観音のご真言を唱えた。
勿論回向文の後のお礼まできちんと済ませた。
札所二十六番は立派なお寺だった。
でも驚いたことに花が一つも咲いていなかった。
「これ牡丹じゃない? きっとゴールデンウィークの頃は花盛りだったかもね」
優香に言われてその木を数えてみた。
でも途中で諦めた。
三百本以上植えてあったからだ。
どうやら牡丹以外はないのかも知れない。
そしてあるべき物がもう一つ見当たらなかった。
札所十五番では、小さなお堂から垣間見られたあの秩父観音霊験記が無かったのだ。
秩父観音霊験記とは、その寺にまつわる由来を記した板絵のことだった。
最初に気付いたまのは、八月二十四日の四萬部寺の大施食会の時だった。
水子地蔵尊に向かう途中で本堂脇に掛かってあったのを見たのだ。
後で尋ねると、秩父三十四札所全部に掲げられていると言うことだった。
『出来れば、全部の秩父観音霊験記を見てみたいね』
だからあの時にそう言ったのだ。
僕の言葉に戸惑いながらも、優香は頷いてくれたのだった。
「あの、すいません。秩父観音霊験記と言う板絵を探しているのですが、何処にも見当たらないのですが……」
「ああ、此処には無いですね」
納経所にいた人は言った。
掲示板の中に別な絵の貼り紙がしてあった。
その隣には、丸い可愛らしい子供の仏様鎮座していた。
その別な絵が貴重なのだそうだ。
平景清の牢破りの額なのだそうだ。
雲の上に立つ白衣観音が悪名高い平景清を放射状に七本の光で金縛りに合わせていると見られているそうだ。
又観音信仰に対するご威光とも言わたりもしているらしい。
興味深いのは、その光は実際の鉄線で出来ている、と言うことだ。
僕はこれが秩父観音霊験記の代わりに置かれた物ではないかと思った。
札所二十六番脇の巡礼道を進むと、丁字路に突き当たる。
其処を左に曲がると工場が現れた。
其処が女将さんが教えてくれた工場のようだ。
僕達はその前で佇んでいた。
工場の中に入る形になるために戸惑ってしまうのだ。
「女将さんの言った通りだね、本当に躊躇する」
僕が言うと、優香が頷いた。
それでも僕達は受付の前を進んでいた。
(僕達巡礼者なのだから、何の遠慮もいらないんだ)
そう思い込ませることにしたのだ。
それでも気が引けた。
所作の後で聖観音のご真言を唱えた。
勿論回向文の後のお礼まできちんと済ませた。
札所二十六番は立派なお寺だった。
でも驚いたことに花が一つも咲いていなかった。
「これ牡丹じゃない? きっとゴールデンウィークの頃は花盛りだったかもね」
優香に言われてその木を数えてみた。
でも途中で諦めた。
三百本以上植えてあったからだ。
どうやら牡丹以外はないのかも知れない。
そしてあるべき物がもう一つ見当たらなかった。
札所十五番では、小さなお堂から垣間見られたあの秩父観音霊験記が無かったのだ。
秩父観音霊験記とは、その寺にまつわる由来を記した板絵のことだった。
最初に気付いたまのは、八月二十四日の四萬部寺の大施食会の時だった。
水子地蔵尊に向かう途中で本堂脇に掛かってあったのを見たのだ。
後で尋ねると、秩父三十四札所全部に掲げられていると言うことだった。
『出来れば、全部の秩父観音霊験記を見てみたいね』
だからあの時にそう言ったのだ。
僕の言葉に戸惑いながらも、優香は頷いてくれたのだった。
「あの、すいません。秩父観音霊験記と言う板絵を探しているのですが、何処にも見当たらないのですが……」
「ああ、此処には無いですね」
納経所にいた人は言った。
掲示板の中に別な絵の貼り紙がしてあった。
その隣には、丸い可愛らしい子供の仏様鎮座していた。
その別な絵が貴重なのだそうだ。
平景清の牢破りの額なのだそうだ。
雲の上に立つ白衣観音が悪名高い平景清を放射状に七本の光で金縛りに合わせていると見られているそうだ。
又観音信仰に対するご威光とも言わたりもしているらしい。
興味深いのは、その光は実際の鉄線で出来ている、と言うことだ。
僕はこれが秩父観音霊験記の代わりに置かれた物ではないかと思った。
札所二十六番脇の巡礼道を進むと、丁字路に突き当たる。
其処を左に曲がると工場が現れた。
其処が女将さんが教えてくれた工場のようだ。
僕達はその前で佇んでいた。
工場の中に入る形になるために戸惑ってしまうのだ。
「女将さんの言った通りだね、本当に躊躇する」
僕が言うと、優香が頷いた。
それでも僕達は受付の前を進んでいた。
(僕達巡礼者なのだから、何の遠慮もいらないんだ)
そう思い込ませることにしたのだ。
それでも気が引けた。