大好きな君へ。
 でも……
次に向かった先も確実に通報されるような場所だった。

僕は結夏と出会った保育園の門の前に居たのだ。


(ヤバい……)

頭の中では判っていた。でも僕はその場を動けなくなっていた。


……ドキン。

又始まった。


目の前の庭で、あの保育士が子供達と走り回っていたのだ。


「ゆうかせんせーい!」
誰かが呼んでいた。


(結夏!?)

気のせいだと思った。


僕はやはり結夏のことしか頭にないのかも知れない。

目の前にいる保育士の名前を結夏に聞き間違えるなんて……




 でも心はうらはら。
気が付けば彼女から目が離せなくなっていた。


(いいんだろうか? 結夏のことが忘れられないのに……。又違う人に想いを寄せている。僕はなんて優柔不断なんだ)


思い出に浸りたくて此処に来た訳ではない。

頭が、体が……
勝手に……
此処まで連れて来た。

そう思った。


(もしかしたら、結夏の導いてくれたのか?)

僕は勝手に、そう思い込もうとしていた。

目の前にいる彼女を僕と引き合わせるためき仕組んだサプライズなのだと……


(そんなはずはないか)

僕は苦笑していた。




 「あら、隼君」

通りすがりのオバチャンに声を掛けられた。


「もうテレビに出ないの? オバチャン寂しいな」


(自分からオバチャンって言ってる)

僕は思わず微笑んだ。




 「もう辞めたんです」


「あら、勿体無い。大女優の息子なんでしょ? 七光りもっと使わなくっちゃダメよ」


「そんな……、あれはただの噂です」


「皆ー、隼君よ」

僕の話も聞かないで、勝手に仲間を集め出したオバチャン。

僕は何時の間にか、数人のファン? の皆様に取り囲まれていた。




 僕は小さい時子役をしていた。
テレビドラマやCMなどにも出演していたんだ。

大女優の息子と言うのはその頃の噂だった。


僕の両親は確かにその人の身内だった。
だから週刊誌があれこれ勘ぐっただけなんだ。


僕と一緒にあのオンボロアパートで暮らしていた叔父は、その女優の妹の連れ合いの弟だったのだ。

もし週刊誌の記事が正しいとしたら……
叔父から見たら、僕は赤の他人なのかも知れない。


僕は確かにニューヨークにいる両親の子供だ。
誰に何て言われようとその事実に変わりはないのだった。



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