大好きな君へ。
 隼は喜んでくれた。
何時もパンばかり食べている隼に美味しい料理を作ってあげたかった。
でも私は結局、そのパンを食材に選んでいたのだ。


一応幾通りかのレシピを考えたのよ。
でも家に殆んど置いてきてしまったの。
それだけ舞い上がっていたのかな?
私どんだけ隼のことが好きなんだろう?



あの時、一瞬焦ったわ。
頭がボーッとして何もかもが飛んでいた。

それでも何とかバッグの中かは探し出したのよ。


それは……
もし好きな人に出逢えた時に困らないようと、恋人も居ない時からシミュレーションしたフレンチトーストのレシピだったの。


まさに地獄に仏。
だから全部頭から消えていたの。


『スーパーに入る前までは違う料理しようとしていたのに、気付いたら……』

そう気付いたら、レシピがなかったんだ。
だから、以前にシミュレーションしたフレンチトーストになってしまったのだ。




 でも隼は美味しそうに頬張ってくれた。
その優しさが嬉しい。


ラスクを作った私を、魔法使いみたいだと言ってくれた。


私魔法使いになりたい。

隼に恋の魔法使いを掛けてみたい。


大好きな君だから。
本物の恋人同士になりたいの。




 さっきスーパーの前の道でもう一度隼のマンションを見上げた。
何となく、窓から私を見ている気になって……


――バシッ。
って視線が絡み合ったら嬉しい。
私は本当はそんな夢をみていたのだ。




 そのままスーパーの中へ入るつもりだった。
でも私は急に店頭のアイスクリームショップへ行きたくなった。
オヤツは済ませたけど、まだ隼との幸せの余韻を楽しみたい私。


それには、あの日隼と食べたアイスクリームが一番だと思ったんだ。


もう一度隼の部屋を見てみる。


隼の部屋は上層階の角。


(目印は……)

そう、東側の窓にある遮光性のカーテン……


あのカーテンは裾が粗く縫ってあっただけだったから、直してやりたかった。


でも隼にとってはとても大切な思い出の品物らしい。


(ねえ隼。その思い出私も知りたいな)

私はあの窓の向こうに隼のいることを想像しながら、あの日以来のアイスクリームを堪能していた。




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