厄介なkissを、きみと
それは、突然に。

「はぁ……」


自宅から歩いて10分ほどの距離にあるバス停を目指す。

その途中、何度となく吐き出した息をこの目で確認することができたなら、それはきっと、足元に、石ころのようにゴロゴロと転がっていることだろう。

知らず知らずのうちに、その中のいくつかを踏み潰したり、蹴飛ばしたりしているかもしれない。


「……はぁ」


「なんて顔してんだよ」


「………」


声のした方を見ると、車に乗り込もうとしていたアイツ、ーーー翔平の姿が目に入った。

濃いグレーのスーツを着た翔平が、

「五月病ってやつ?」

開いたままの、運転席側のドアに手を置いてニヤリと笑う。


「そんなんじゃないよ。昨日、仕事を残して帰ってきちゃったから、それを考えると気が重くて……。
って、呑気に話なんかしてる場合じゃなかった」

じゃあね、と手をヒラヒラとさせ、歩き出した。


バスに乗り遅れちゃう。

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