恋架け橋で約束を

孝宏君の親友たち

 孝宏君の案内でショッピングモールに着いた私は、早速ブティックに連れていってもらった。
 高すぎるのを買ったり、量を買いすぎたりすると迷惑がかかるので、慎重に選ぶ。
 可愛い帽子やネックレスまで買ってもらったけど、申し訳ない気分になった。
 孝宏君から「これ、どうかな?」とか言われると、断りきれなくて、ついつい……。
 特に、濃紺のワンピースは、孝宏君が強く勧めてくれたし、私自身かなり気に入った服だった。
 さっき買った帽子と色も合ってるし……。



 下着を買うときは、孝宏君は気を利かしてだろう、少し離れていてくれた。
 気遣いがとても嬉しい。



 そうして色々なお店を回りながら、必要なものを揃えていった。



 モールの外に出ると、少し薄暗くなりはじめていた。
 道端からかすかに虫の音が聞こえている。
 気温もグッと下がったようで、そよ風が心地よかった。
「それじゃ、帰ろう」
「買い物に付き合わせることになって、ごめんね。それに、おばあさんにはお金も出してもらうことになってしまって……。これから食事などもご厄介になるのに」
「全然、気にしなくていいよ」
 孝宏君は笑顔で言ってくれた。
 そのとき―――。

「神楽坂君ではありませんか! おやおや、イカしたカワイコちゃんをお連れで」
 孝宏君と同い年くらいの男子が話しかけてきた。
 真面目そうな風貌の人だ。
 口元に微笑が浮かんでいるものの、目があまり笑っていないので、愛想笑いのように見える。
 孝宏君のお知り合いかな?
「おお、崎山! ああ、佐那ちゃん、こちらは崎山道重(さきやま みちしげ)。僕の友達だよ。こちらは佐那ちゃん」
 孝宏君が紹介してくれた。
 お友達だったんだ。
「初めまして。佐那と申します」
 この名前が本当に私の名前かどうかは分からないだけど。
「これはこれはご丁寧に。お初にお目にかかります、崎山と申します。以後、お見知りおきを」
 カクッときれいな直角のお辞儀をしながら、崎山君が言った。
 相変わらず目は笑っていないのに、表情は柔和だ。

「それで、お二人はアベックということでございますか?」
 崎山君っていつもこんなしゃべり方なのかな?
 孝宏君とは友達同士のはずなのに。
 少し変わった人なのかも。
 孝宏君が、私に話してもいいかどうか確認を取ってから、事情を崎山君に説明してくれた。



「なるほど、よく分かりました。それは大変でございましたね。心中お察しいたします」
「ありがとうございます」
 礼儀正しい言葉遣いに、思わず私は頭を下げた。
「しかし、神楽坂君、いいのですか? 他の女性と同行していますところを、九十九(つくも)さんに見られてもしては……。ご計画がポシャりますぞ」
 つくもさん?
 ポシャる?
「あの……どういうことですか?」
 私は聞いた。
「い、いや、何でもないんだ。大丈夫」
 ちょっと慌てた様子で両手を胸の前で振りながら、孝宏君が代わって答えてくれた。
「も、もしや……。神楽坂君、まさかお熱なのでは? 佐那さんに……」
 私をじっと見ながら崎山君は言う。
「おねつって、風邪で熱でもあるんですか?」
 崎山君の話はイマイチ分かんない。
「つまり、ホの字……」
 崎山君が言い終わるのを待たずに、孝宏君が「だぁ~」と言ってさえぎった。
「これから帰って夕食なんだよ、あまり長く話してられないって」
 孝宏君が言う。
 そう言えば、少しお腹が減ってきた気がする。

「なるへそ、そうでございますね。いやぁ、神楽坂君、失礼いたしました。夕食の時間、たしかに。合点承知(がってんしょうち)のすけです。それでは、バイナラ」
 崎山君はまた直角のお辞儀をしてから、背筋をピンと伸ばして歩き去った。
 変な言葉ばっかり使う人だけど、礼儀正しいし、悪い人ではないのかも。
 何より、孝宏君の友達だから、きっといい人なんだろう。



「ちょっと変わってて、面白い人ですね。崎山君って」
「えっ」
 少し驚いたような表情で私を見る孝宏君。
「ああ、ごめん。あいつに好意的な反応を示す女の子は珍しいから、ついびっくりして」
「そうなんですか?」
「うん、いつもあの調子で敬語だし、あと時々一言多いときがあるし、場の空気を読まないし」
 崎山君には申し訳ないけど、それは何となく分かる気がした。
 何というか「我が道を行く」って感じだったし。

「でも、悪い人じゃないですよね」
「うん、それは間違いないね。さぁ、こんなところで立ち話も何だし、家に帰ろう」
 そして私たちはそのままおしゃべりしながら、帰路に着いたのだった。



 家に入ると、玄関先に見知らぬ男子がいた。
 孝宏君に負けず劣らずイケメンだ。
 体格は孝宏君よりがっしりしていて、背も少し高いみたいだった。
 髪の長さは、孝宏君より明らかに長めで、耳に髪がかかっている。

「あれ? 智、来てたのか。ああ、こちらは御木本智(みきもと さとし)。さっき紹介した崎山と同じく、僕の親しい友達の一人だよ。こちらは佐那ちゃん。色々あって、今ここに居候してもらってるんだ」
 孝宏君が紹介してくれた。
「あ、初めまして。来栖野佐那と申します」
「初めまして! 智って呼んでね。居候って、佐那ちゃんも孝宏みたく、学校に通うために? でもうちの学校じゃないよね。佐那ちゃんみたいな美少女を、俺がチェックし逃すはずがないし」
「そんな……美少女だなんて、とんでもないです」
 智君って、人をおだてるのが上手いみたい。
 ここで、私は事情をかいつまんで智君に話した。



「そっか、大変なんだなぁ~。俺でよければいつでも力になるよ!」
 智君は力強い口調で、右手で自分の胸を叩いて言ってくれた。
 孝宏君の友達だけあって、いい人なんだなぁ。
 頼りがいがありそう。
 智君には今まで会ったことがあるような感覚が一切なく、記憶に何の引っかかりもなかった。
 それでも一応念のために聞いてみる。

「あの……。智君は以前私に会ったことってありませんよね?」
「残念ながらないなぁ。佐那ちゃんみたいな可愛い子と会ってたら、確実に覚えているはずだし」
「え、あ、ありがとうございます」
 またお上手を言ってもらったので、お礼を言っておいた。



「それで、何の用で、うちに来てたんだ?」
 孝宏君が、智君に訊ねた。
「ああ、ちょっと遊びにいかないかと思って。メシの時間までまだ一時間くらいはあるだろ?」
 智君が腕時計を指差して言う。
「悪いけど、今日は遠慮しておくよ。一時間じゃ、行けるところも限られてるし」
「今日は付き合い悪いなぁ。………ははぁん、さては佐那ちゃんだな、理由は」
「な、何言ってんだよ」

 もしかして、私のせいで気を遣わせてしまってる?

「あ、あの……。私のことなら気になさらないでくださいね。このあとしばらく自室で休ませていただくので」
「あ、頭痛がひどいんだったよね。玄関で引き止めてしまって、ごめん」
 孝宏君の表情が曇った。
 心配かけちゃってるんだ……。

「いえ、もう頭痛は大丈夫です」
「だったら、佐那ちゃんも一緒に行こう! サッカーボールを持ってきたから、そこの公園でも」
 智君が言う。
「佐那ちゃんは頭痛が治ったばかりだから、無理をさせちゃダメだよ」
 孝宏君が言った。
 しげしげと孝宏君の顔を見つめて、そしてニッと笑う智君。
「ふふーん、やっぱりな……。孝宏、お前……佐那ちゃんが好きなんだろ。だったら、美麗(みれい)ちゃんのことはどうなるんだよ」
「美麗さん?」 
 私が思わず聞いた。
「ああ、いや、何でもないよ。誰にも内緒って約束だったよな、ごめんごめん」
 大げさな身振りを交えて智君が言った。
 孝宏君はなぜか顔が真っ赤で、すごくうろたえているようだ。
 孝宏君はその美麗さんって人のこと、好きなのかな。
 そのとき、私はなぜかちょっとショックを受けた。
 私、孝宏君のこと、何も知らないんだ……。
 そして、孝宏君のことを、もっと知りたいと思ってる……。

「それじゃ、俺がいても邪魔なだけみたいだし今日はもう帰るわ。また明日な!」
「ああ、すまないな。また明日!」
 孝宏君と智君が挨拶を交わした。
「それでは、また」
 そう言って、私は智君に向かってお辞儀をした。
 智君は私に向かってウインクしてから立ち去っていった。



「孝宏君のお友達は、いい人ばかりみたいですね」
 智君の姿が見えなくなってから、私が言った。
「ありがとう。智はたまにいい加減な言動が目に付くけど、根はいいヤツだよ。それじゃ、こんな玄関先でいつまでも立ち話っていうのも何だし、僕の部屋に行こう。智の言うとおり、夕食の時間までまだもう少しあるからね」
 そして私たちは、孝宏君の部屋へと移動することにした。
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