恋架け橋で約束を

部屋でひとり

 私はもう一度、階下に降りて、おばあさんにも挨拶をしてきてから、自分の部屋へと戻る。



 ひとりになった私は、なぜか無性に寂しくなった。
 ベッドに入って横になったけど、記憶を失くしていることから来る不安もあってか、なかなか寝付けない。

 そして、もう一つの不安は、孝宏君が好きな人だという、美麗さんについてだ。
 孝宏君に想ってもらえるなんて……心底、美麗さんが羨ましかった。

 記憶を失っていることで心細い、ということだけが理由じゃないように思える。
 考えるだけでも少し恥ずかしいけど、私……孝宏君のことが……。

 最初はかっこいい人だなと思っていて、そのあと色々とお世話になって、優しい人だってことも分かった。
 ちょっと頭痛に悩まされただけで、すごく心配してくれる孝宏君。
 私の頭の中は、すでに孝宏君でいっぱいになっていて、うっかり自分が記憶を失くしているという深刻な事態に陥っていることすら忘れかねないほどだった。
 きっと、孝宏君に出会えてなければ、今頃私はもっと深刻に悩んでいたはずだし、どうなっていたか想像すらできない。
 想像したくもないけど。
 
 でも、私……記憶が戻ったら、元々好きだった人のこと、どうしよう。
 その人との恋愛成就を願って、絵馬を書いていたわけだし。
 ほんと、どうしよう……。
 だけどやっぱり……私は孝宏君のことが……好き。
 今の私がはっきり断言できるのは、このことだけだった。

 そんなことを色々と独りで考えていると、なかなか寝付けない。
 早く寝たほうがいいことは、重々分かっているんだけど。

 それでも、いつの間にか、私は眠りに落ちていた。



 その晩、私は夢を見た。
 場所は分からないけど、満天の星空の下、誰かを待つ私。
 そして理由も意味も分からないけど、どこからか声が聞こえてくる。

「七月七日、記憶は戻る。でも、今の状況とはお別れ。色んな意味で……」

 穏やかな低い声で、耳元でささやかれているように感じたんだけど、声の主の姿は見当たらない。
 不気味で、少しゾクッとした。
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