恋をしようよ、愛し合おうぜ!
「なっちゃん」
「はい?」
「明日、俺んち来いよ」
「で、でも蕁麻疹が・・・」
「する・しねえはひとまず置いといて、ずっと離れてた反動か、やっぱ俺、おまえとは電話で話すよか、そばにいてほしいんだよ」

スマホ越しに聞こえた野田さんの声は、すねてるように、そして弱気で切なく響いたような気がした。
と思ったら、「おまえだって俺にそばにいてほしいだろ?」と続けて聞こえた低音ボイスは、自信に満ち溢れていて。

そのギャップが、いかにも野田さんらしいと思ったのと、実際、野田さんが思ってるとおりだから、私は一瞬だけためらった後、「うん」と返事をした。

「よし決まりだっ!じゃあ明日、仕事帰りに会おうぜ」

ということが昨夜の電話で決まって、今日野田さんは、仕事帰りにうちへ寄ってくれる。
そして、野田さんちに引っ越すことも、そのときの会話で本決まりになったので、今日野田さんが、仕事帰りに段ボールをいくつか調達してきてくれる。
それをここに持ってくるため、待ち合わせ場所はうち、ということになった。

ありがたいことに、さっきヒロミちゃんから、余っている段ボールを3つと、ガムテープをもらったので、春夏物の洋服や、今すぐ使わないバッグなどを、せっせと詰めこみ始めた。

「あ。これ今日野田さんがこっちに来たとき運んでおきたい」と思った私は、野田さんにメールを送った。
もちろん、プライベートのアドレスに。

お昼休み中にでも見てくれたらいいなと思っていたから、メールを送ってから15分くらいで返事が来たのにはビックリした。

『箱3つなら俺の車で楽勝。お泊りセットの用意も忘れるなよ。今移動中。ウッチーが“今日の課長はニヤニヤしすぎです”ってまた言った。 真吾』

それを読んだ私は、「お泊りセット」のところからプッとふき出しつつ、「真吾」の部分で穏やかな笑みを顔に浮かべた。

野田さんの名前を見ただけで、胸がドキッと高鳴る。
そして体中のときめきホルモンが、活性化し始めた。

私は穏やかな笑みを浮かべたまま、「真吾」の部分を人さし指で撫でるようになぞると、『了解。ニヤニヤするのは移動中だけにしてください。内田さんによろしく。好き。 なつき』とサラッと打って、パパッと送信した。

・・・今まで私は、「私が相手に甘える、頼る」という形のおつき合いしかしたことがなかった。
こんなことを比べちゃいけないのは分かっているけど、私より1つ上の元だんなには、野田さんみたいに甘えたがりな部分はなかったし。
・・・それはたぶん、私がいつも「抱きしめてほしい」と、相手に求めてばかりのスタンスだったからかもしれない。
とにかく、私のことをいつも「なつきさん」と、さんづけで呼んでいたのは、まさにあの人らしいって感じで、実年齢よりも、すごく大人の雰囲気を持ってる人だとは今でも思っている。

対して、野田さんには、甘えてほしい、甘えさせたいという気持ちがすごくある。
同時に、私も野田さんに甘えたいという気持ちも、もちろんある。
「甘える」っていうのは、文字どおり、イチャイチャ的甘えな意味もあるけど、それだけじゃなくて、相手を構うとか、ケアするとか、慈しむ、癒す、和ませる、トリートする、みたいな意味合いも含まれていて。

なんて思っているとき、スマホが鳴った。
メールを開くと、思ったとおり、野田氏からだったので、つい顔がニンマリしてしまった。

『了解。真面目に仕事するぜ。俺もなっちゃんのこと好きだ!奇跡だな 真吾』

というメッセージを読んだ私の心は、またホッコリ温かくなった。
野田さんに出会えたことは奇跡だ。
そして、好きな人に好きだと思ってもらえることも、ホント奇跡だと思う。

何より野田さんに恋をしている今の私の存在自体が奇跡だよね。

幸せな気持ちと高揚感に満たされると、身も心も軽くなるんだなぁと実感しながら、私は野田さんちへ持って行くもの、処分するものを選別し始めた。


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