不機嫌なアルバトロス
「初めまして…じゃ、ないわね?」
あの時と同じ、艶のある声で、目の前に座る彼女は笑った。
ウェイターが、椅子を引いてくれているので、私も中堀さんも腰を下ろす。
悪魔な中堀…じゃなく、今は紳士な兄は、心底心配しているという顔をしながら、私を見やった。
その裏には、『お前、しくじりやがったな、初めましてじゃねーだろ?馬鹿野郎』という意味が隠されていることだろう。
彼は静かに言葉を紡いだ。
「…ちょっと説明するのに時間が掛かってね。乃々香は驚いて、今気を取り乱してるんだ。…乃々香、前に俺が会社の近くまで迎えに行った時に少しだけ志織と顔を合わせたんだけど…思い出せるかな?」
え?!その、その後を私にどう繋げろって言うの?
私は背中に冷や汗をかきながら、頭をフル回転させる。
「いいのよ、突然で驚いたんでしょう?どうか気に病まないでね。私が無理にいい出した事なの。」
そう言って、志織さんは少し眉を下げた。
な。
なんて、できた人なんだ…
私は開きかけた口をそのままに、右隣に座る志織さんを見つめた。