不機嫌なアルバトロス

「中堀さんは…私に嘘は、吐かなかったな…」




ひとしきりぼろぼろ泣いた後、少し落ち着きを取り戻しつつ、私は呟いた。


名前も。

自分の正体も。

人を好きにならないってことも。



あの人は簡単には手に入らないけど。


だけど、いつも、本当のことを言ってくれている。



あの人以外は私に嘘を吐く。

あの人は私以外に嘘を吐く。




「わかんないな…」



どちらが本当の優しさなのか。



優しさはいつも、私が考えるのと反対方向にある。



今までのが間違いだったとしても。



中堀さんが正しいとは言い切れない気がする。



それでも心地良く感じるのは。


冷たくて嘘を吐かないけど愛してはくれない、彼なのだ。
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