不機嫌なアルバトロス
トーマさんって一体何者?
自分の頭の中で驚きがエコーし続けているのを感じながら、目の前の料理にごくりと唾を飲んだ。
「まぁ、それは置いといて。俺、内心驚いてるんだよね。」
テーブルの上に頬杖を突いて、トーマが呟くように言った。
「―え?」
既にフォークを手に取りちゃっかりいただきますの姿勢で私は聞き返す。
「零はあんなだから、特定の物や人に執着することがないんだ。来る者拒むし、去る者は追わない。」
トーマが何を言わんとしているのかわからず、私は無言で湯気の立つペスカトーレにフォークを突き刺した。
「零とカノンちゃんはどこで知り合ったの?」
まさに赤いパスタを口に運び込む直前で、トーマが訊いてくるもんだから、私のお腹は残念がっている。
「え、えと…、駅、から…会社に行く途中で、、ぶつかって…あ、私の勤めている会社、すぐそこの、、なんですけど」
それでもフォークを下に戻すこともできず、宙に浮かせたまま、かろうじて答えた。
「へえ、そうなんだ…?俺興味あるんだよね。零は今までどんなことがあろうと、自分の実名を教えたりしなかったしそれに…」
お、その先は、パスタよりもちょっと興味があるぞ。
「それに?」
今度こそ、私はフォークをお皿に戻して、きちんとトーマを見る。
なんてゲンキンな女なんだ、私。