不機嫌なアルバトロス
ドンドン!



扉を叩く音で、俺ははっとした。



「零!!!もうすぐ用意しないといけない時間だよー!」



扉の向こうから葉月の元気な声が聴こえる。



少し、まどろむことには成功したみたいだ。



意識がぼんやりして一瞬自分がどこに居るのかわからなかった。




「…今、行く」



ドアの向こうに聴こえない程度の声で呟いて、俺は立ち上がる。




今宵、また青いライトの下で、俺は零を演じて。



それから志織の前で佐藤一哉を演じて。



…だとしたら。



あの日、あいつにキスした俺は、誰だ?



ドアノブに手を掛けると、段々と抵抗する力が弱くなっていった櫻田花音の手首を思い出して、思わず一度引っ込めた。





「…ほんと、どーかしてる。」




まだ纏わり付くあの日の記憶を振り払うように、強く頭を振って再度ノブを回した。
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