12月の恋人たち
<12月24日 午後7時30分>

「はぁー…今年もここは人がいっぱいだね。」
「もう出会って1年か。もっと長く一緒にいたような気がするな、僕は。」
「そうだね。」

 丁度1年前のこの日、彩里と透哉はこの場所で出会った。カップルが待ち合わせによく使う、ビル街の中でもひときわ目立つイルミネーションのあるこの場所で。
 あの日二人は来ない待ち人を待ち、傷を舐めあうようにキスをした。最初は透哉から、次は彩里から。そんな始まり方をした二人が今こうして隣を歩いていることは、彩里にとってとても不思議なことだった。

「今思うと、すごい出会い方だったなぁって。」
「え?」
「だって出会ってすぐキスしちゃっててさ、恋人でもないのに。恋人はおろか、名前すら知らないのにだよ?今までの私なら絶対に有り得ない。」
「名前ならあの後すぐ教えたよね?」
「そうだけど。」
「あの後、なんてことないファミレスに入って、お互いの仕事のこととか当たり障りのない話をしたんだっけ。」
「そうそう!透哉さんが細いのに意外と食べるってことにすごく驚いた覚えがある。」
「僕も彩里さんは案外食べるなぁって印象だったけど。」
「もうヤケ食いだよ。どーにでもなれって感じ。」
「あはは。でも確かに。僕もどうにでもなれっていう気持ちだった。少なくとも、彩里さんと出会うまでのあの日はね。」

 繋がれた手が少しだけ強くなった。それに合わせて彩里も顔を上げた。

「…透哉さん?」
「でも、彩里さんと出会って僕は変わったよ。立ち直れたこともそうだけど、多分それだけじゃない。」
「え…?」

 3つ年上であるということも相まっていつも穏やかな表情をしていることの多い透哉だが、今日『いつも』とは少し違って見える。

「…こんなに人を好きになれたのは、生まれて初めてだよ。」
「っ…、い、今ここで…そういうこと…言われてもっ…。」

 どんな顔をしたらよいのかわからない。ただただ頬の熱が上がっていく。

「今年は君がいるから。…だから僕は歩いていける。隣に君がいてくれるだけで、僕はどうしようもないくらい、…幸せだからね。」

 限界だ、恥ずかしさの。そう思って、彩里はコートの裾を引いてその胸に顔を埋めた。赤すぎる顔を隠したくて。

「耳は隠せないね。真っ赤で可愛い。」

 透哉の優しい指が彩里の耳をつついた。それによってもっと熱が上がることをわかっていながらやるのだから確信犯だ。
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