12月の恋人たち
<12月24日 午後8時30分>

 海央の緊張はかなり高まっていた。

(…どこもかしこも陸くんの香りでいっぱいすぎる…!)

 陸が一人暮らしを始めたことはもちろん知らされていたし、遊びに行きたいとねだったのも海央の方だった。がしかし、自分がとてもお子様であったことを思い知らされるばかりだ。
 一緒に料理をしても、陸の手際良さに驚いてへこみ、陸の手が触れたことに驚いてお皿を割ってしまったことにもへこみ、今はというと脱衣所で化粧水を忘れたことに気付いてへこんでいる。へこんでは焦って、空回って、悪循環は止まらない。

(…せっかくのクリスマスイブなのに、へこんでばっかりだ。)

 元々陸が大学生であり、海央が高校生であるという点で、落ち込むことは多い。というのも全ては自分が幼いと思うが故だ。海央から見れば、陸は何でもできる頼りになるお兄ちゃんであり、彼氏と呼ぶにはまだ少し引け目を感じてしまう。

「海央ちゃん。」
「ひゃい!」

 ドア越しに声を掛けられて、思わず変な声が出た。半裸状態だったことも余計に焦りを助長させる。

「あ、ごめんね、いきなり。バスタオルの場所教えてなかったなって。右上の棚のボックスに入ってるから。」
「あ、うん!ありがとう!」
「ゆっくり温まってきて。」
「うん。」

 いつもと変わらない陸の様子に、また思い知る。泊まりに行きたいと言ったのは自分なのに、いざこうして泊まりに行くと陸の一挙一動に挙動不審になる自分にうんざりする。大人と子供の違いを見せられているような気持ちになってしまう。悪いのは陸じゃないのに、だ。そして不安になる。こんな子供っぽい自分は、陸に嫌われてしまうのではないかと。

「うぅ~…ネガティブすぎて…嫌だ…。」

 海央は湯船につかりながら、ぶくぶくと泡をはいた。
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