いろはにほへと
「!」




あれ。



なんだろう。



なんで、心臓が今ドクッって言ったんだろう。




直ぐに視線を藤に戻して、手は動かしたまま、心の中で首を傾げる。




あぁそうか。




元々私は他人の目を見ることが苦手だから、前髪で隠しているんだった。



こういう慣れない感覚は好きじゃない。



厄介なことに巻き込まれてしまった。



気付かれないよう小さく溜め息を吐く。





「ねぇー。何て呼べばいい?何て名前なの?ねぇ。俺のことはトモハルでいいから。教えて。」





そうだ、ラジオ。



ラジオをかければ良かった。


そうすれば、ちょっとは気が楽だし、男の声も気にならなかった筈。





「ねぇねぇねぇ!!!」





………




「教えてよー!折角偶然で知り合ったんだしさ。」




……



「無視?無視はさ、良くないよ、うん。だってさ、無・視、だよ?見ませんってことだよ?見ないフリだよ!?」





「……教えたら…」





「えー?」





「……教えたら、静かにしてくれます?」





「うん!!!」





犬のようにコロコロと表情を変える男、もとい、トモハルの反応に今度は隠す事無く盛大な溜め息を吐いた。

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