いろはにほへと



左手の、小指が、ジリジリ、する。





お互い分かっている。

さっきの突然の偶然で、動揺していること。

だけど、何事もなかったかのように振舞おうとしているコト。

電気のオンオフみたいに、直ぐに気持ちが切り替えられたらいいのにと、本気で思う。

この、わざとらしい私のリアクションも、桂馬の優しさも。

トモハルの声を当たり前のように聞いて、ほっとした自分も。

全部、電源を切って、気付かないでいられたらいいのに。


前に進む。

その為には、越えて、きちんとさよならをする必要はあったと思う。

本人を目の前に、それが出来たんだ。

ラッキーな事だったんじゃないか。


そう、思えたらいい。


トモハルとは、さよならばっかりしているから、既視感がある。

姫子さんの庭
車の中
事務所の中

それはどれも心が痛んだ。
また、か。って。
いつもいつも、引き裂かれるみたいに。

でも、今回みたいに、自分からきちんと切り出したさよならは、初めてだった。



そして知ったのは。



さよならを言う人の、心も痛むこと。



早く、越えて。

その向こうで、もう一度、自分の中だけで、さよならを言えたら良い。

その位になったら、今度こそ、この心は、痛んだりしないだろう。

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