いろはにほへと


それでも太陽はふとした時に、泣き続けるから。


ーだから、空からは雨が降る。


そう締めくくってあった最後の行。

想い合う二人は、共になれなくとも、ずっとお互いを想い合っている。



「ありがとうございましたーーー」



成人を過ぎてから大分経つ男が、こんな絵本を買うなんて、店員が訝しがるかもしれないと思わなくはなかったが、それを無視して購入、店を出た。


何より絵が綺麗で。

内容が、詩みたいで。

唄みたいだった。


歌を歌えなくなってから。
いや、歌わなくなってから数ヶ月。

俺はやっぱり歌が歌いたいんだ、と思い知らされた。

外の空気があまりに寒く。

余りに冷たいから。

叩きつけられたそれは熱を持って、己の内に宿る。



ー空っぽになって、心底唄が嫌になっても、俺にはやっぱり唄しか残ってないんだ。


シンプルな、その答えが、可笑しくもないのに、笑える。

「ふっ」

そしてその空気が、僅かに音を含んで漏れた。
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