明日の地図の描き方
「す、すみませんっ‼︎ 」
松田さんに平謝り。寝過ごして遅刻なんて、前職から考えても初だ。しかも、今、研修期間中なのに、遅刻なんてヤバ過ぎ…。
「前島さんが遅刻するなんて、珍しいわね。何かあったの?」
松田さん、怒るどころか返って心配してくれた。
「こっちの都合でいきなり週五日勤務にしたから、疲れてるんじゃない?」
「いえっ!そんな事はありません!」
(仕事はいいの。楽しいから…)
「そう?ならいいんだけど…」
松田さん何か理由聞きた気。でも、何も聞いてこなかった。
「すみません。明日から気をつけます」
ぺこり…深々と一礼。こんな事で頭下げるなんて、学生か、私は…。
(これと言うのも…)
頭に浮かぶトオル君の顔。昨夜あれから自分の家に帰ったんだろうか。
(…と言うより、あの女の人の声って…)
思い出すとイラッとくる。やきもちだよね、完全に。

スッキリしないまま仕事して家に帰り、昨日の続き。
オーナメントは出来たからいいけど、問題は手袋。夜中のことがハッキリしないのに、なかなか心込めて編むって気にならなくてさ…。
(弁解くらいしてくればいいのに…)
編むの止めてケータイ眺めた。鳴ることもなく嫌になる。
やっぱり思いきってこっちからかけて聞くべき⁈ あの女の人誰なの⁉︎ …って。
(なんだかそれもイヤだよね。信じてないみたいで…)
…と言うか、そもそも夜中の電話の時点で、トオル君への信頼度、ガタ落ちなんだけど。
私にはお茶したくらいでペナルティー課したくせに、自分は何なのさ、私よりもひどいじゃん。酔っ払った上に、女の人の家(?)に外泊(?)なんて…。
真実が分からないって、こんなにも不安でイライラすることなんだって、改めて実感。
私がこんな気持ちでいること、トオル君、絶対知らないよね。
(こうなったら、向こうから何か言ってくるまで、一切電話もメールもしないでいようか…)
いやいや、それじゃあ私がペナルティー課せられてるみたい。やっぱり声聞きたいし、どうしてるのか知りたいし…。
じーーっ…
(ケータイよ、鳴れっ!)
なんて、鳴る訳ないか。アホだ…。
「やっぱかけよ」
なんでも“お試し” 。自分のモットーだったじゃん。

履歴からトオル君の電話番号選んで…と。
「えいっ!」
通話ボタン押した。コール五回待っても出ない時は仕事中。そういうルールの私達。
RRRRR……
(一回、二回、三回、四…)
「…もしもし…ミオ?」
ドキッ! 息…切れてる。
「ごめん、忙しかった?」
走って来て電話に出たの?それとも…
「いや、今…ジムにいるから…」
ジム?ああ、トレーニングジムね。剣道のない日、三十分程通ってると言ってたっけ。
(忙しい人だな、全く…)
「じゃあまた後でかける。急ぎじゃないから。うん、じゃあね」
タイミング悪っ…。今のですら、ケッコー勇気いったのに、またかけ直しか…。
手袋の棒針持って編み編み。少し声聞いただけなのに、やっぱり気持ちこもる。単純だな、私って。

指一本編めて、ホッとケータイ見たら丁度いいくらいの時間。
(そろそろかけ直してみようかな…)
ケータイに手を伸ばそうとしてビクッ!
RRRRR…
いきなり鳴るんだもん、ビックリしたぁ…。
「もしもし、ごめんね、かけてもらって」
「こっちこそごめん。いつも忙しくて…」
(ホントだね)
言っても仕方ない言葉、心の中に留めとこ。
「ところで何かあった?」
トオル君、普通にそれ聞くか。
(…ってことは、夜中のこと覚えてなし…?)
「あのね、それはこっちのセリフなの。夜中の二時過ぎに酔っ払って電話してきたの、覚えてる?」
「えっ⁉︎ あれ夢じゃなかったんだ」
「はぁ⁉︎ 」
あんまり酔ってて、夢と現実の区別もついてなかったのか…。
「呆れた…」
さすがにポロッと出ちゃったよ。
「ごめん…」
ポリスの彼を謝らせるのなんて、私くらいだね。
「謝らなくてもいいから説明して。昨夜どこに泊まったの?」
(あの女の人…誰⁉︎ )
言葉呑み込む。トオル君の答え、ドキドキしながら待った。
「んっ⁈ 同業者のアパートだけど」
「その人って、女性⁉︎ 」
イライラして聞いた。トオル君、あんまり普通に話すから。
「男だよ、当たり前だろ」
「じゃあ、あの女の人誰なの⁉︎ 」
抑えてミオ、感情的になっちゃダメだって…。
「女⁉︎ 何のこと…?」
(しらばっくれてんの…?この人…)
「電話口で聞こえたよ。女の人の声。それで直ぐに電話切れた」
胸がざわつく。こんな話、顔も見ずにするもんじゃないよね。
トオル君、私の話聞いて黙り込んだ。それが余計でも私を苛立たせるって、知ってか知らずか…。
「なんとか言って!」
ほぼ怒鳴ってる。やきもちもいいとこだな。
「ミオ、僕のこと信用してないの?」
冷静な声。どうしてそんなに落ち着いてられるの…。
「信用してるとかしてないじゃなくて、キチンと説明して!でないと納得できないのっ‼︎ 」
あーもう、完全に怒ってる私。のらりくらり話すトオル君に、怒り心頭。なのに…
「そんな怒ったって、こっちは何の事だか…」
「酔ってて記憶になかったら、何してもいいの⁉︎ あんた警察官でしょっ‼︎ 」
プチッ!…なんか切れた…。
「もういいっ!トオルのバカ‼︎ 」
ブチッ。ケータイの電源、OFFにしちゃう。まるっきり、子供のやる事だ…。
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