心を全部奪って
パタンとドアを閉めて、ゆっくり歩き始める。


階段を下りるたび、カンカンとヒールの音が暗闇に鳴り響いた。


何度も何度も唇を手の甲で拭うけど、あの執拗な唇の感触はなかなか消えそうにない。


でも、キスで解放されただけ、まだマシだったと思わないと…。


初めて歩く町並み。


私、どうしてこんなところにいるんだろう。


あんな人、ほうっておいて帰れば良かった…。


でも、きっとあの男は全部計算していたんだ。


私が肩を貸すことも。


流れで、あの部屋に入ってしまうことも…。


今日こうならなくても、


いつかはああやって


私を脅すつもりだったんだ……。




『お前、スキだらけなんだよ』



情けなくて、目に涙が滲む。


ふと空を見上げたら、青白い月がくっきりと輝いていた。


その時、カバンの中のスマホが鳴った。


はぁとため息をつきつつ、スマホを取り出す。


暗闇の中ボワッと光るスマートフォン。


表示されたメッセージに、


思わず足を止めた。

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