心を全部奪って
「失礼しました」


会議室の扉をパタンと閉めて、長い通路を歩く。


午後から鈴木さんがメーカーさんと会議だったから、私はお茶を出していた。


これから席に戻って、大量の伝票を入力しなくちゃ。


そんなことを思っていた時、突然第二会議室のドアがガチャンと開いた。


ドキッとしたのも束の間、そのドアから伸びて来た手に腕を引かれ、会議室の中へと引きづり込まれてしまった。


悲鳴を上げそうになる口を、後ろから大きな手で塞がれる。


やだっ、誰なの?


恐怖で振り返ると、そこには…。


『工藤さんっ』


私を会議室に引き入れたのは、なんと工藤さんだった。


シッと人差し指を立てる工藤さん。


『どうしたんですか…?』


小声で尋ねると、工藤さんは私をそっと抱き寄せた。

< 51 / 370 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop