異世界で不老不死に転生したのに余命宣告されました


「じゃあ、行きましょう」

 一応機嫌が直ったみたいで、リズはタダ券をオレに向かって掲げて見せた。このまま下僕モードで一緒にお茶するのはなんだかおもしろくない。
 オレはリズの握ったタダ券を素早く奪い取った。

「ちょっ! なに?」
「どうせならリズも社会勉強したら?」
「なんで私が勝手知ったるクランベールの社会勉強をしなきゃならないのよ」
「そうじゃなくて、将来恋人ができたときの予行演習。男と付き合ったことないんだろ?」
「なっ……!」

 目を見開いたリズの顔が見る見る赤くなる。あー、やっぱ図星だ。センサがとらえたリズの心が激しく動揺している。

「余計なお世話よ! 私は大叔母さんと同じように生涯独身を貫いて研究に没頭するんだから!」
「でもリズの大叔母さんってバージュ博士と結婚してないだけで実質は夫婦だったんじゃないの?」
「若い頃の関係は知らないけど、親友だって聞いてるわ。公式な経歴でも”友人”になってるでしょう?」

 へぇ。てっきり夫婦だと思ってた。ふたりが同居を始めたとき、バージュ博士は三十一歳でリズの大叔母さんは四十歳だったらしい。オレがいた日本だと彼女が子供を産むのはギリギリの年齢かなとは思うけど、クランベールの女性は若い内に卵子を保存している人が多いらしい。おまけに医学や科学が発達しているので人工授精や人工子宮も当たり前で、子供を産むのに年齢制限はない。
 ふたりの間に子供がいないことを考えると、リズの言うように「親友」で、夫婦ではなかったというのも信憑性がある。
 まぁ、それはそれとしてとりあえず置いといて、オレはリズに手を差し出した。

「まぁ、独身貫くにしても何事も経験だから、オレで練習しとけば? ほら」
「なに?」
「手。つなごう?」
「いっ……! いいっ! そんなの!」

 リズは再び真っ赤になって、顔の前で思い切り手を振る。ロボット相手に動揺しすぎだろう。


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