28才の初恋
 昼イチでやってきたメールの案件を処理する頃には、大樹クンが淹れてくれたお茶も残り僅かになっていた。

 大事に大事にして飲んでいたのだが……やはり量に限りはある。
 このオフィスに誰も居ないのであれば、この残り一滴のお茶をスポイトで吸い取って永久保存にしたいところである。

 だが、ここは課員が居るオフィスで、私のデスクはみんなからハッキリと見える位置だ。
 ウカツな真似が出来ないのが本当に悔しい。

 最後の一滴に口の中を潤すほどの力が無いことは理解しているが、湯呑みを通じての大樹クンの指との間接キスは充分に私の心の中を潤してくれる。
 舐め取るように、湯呑みを口に持って行こうとした、その時――営業二課の電話が鳴った。

「ハイ、お世話になっております。……」

 小島の受け答えの様子から見ると、相手は取引先のようだ。
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