28才の初恋
 帰りはちゃんと電車に乗り遅れないように、みんなが電車に乗るのを確認して、自分もスグに電車に乗り込んだ。

 指定席を取っているわけでもなく、みんな自由席にめいめいに座っている。
 シーズンを外れた観光地の電車というのは、割かし空いているもので、私も空席を見つけて席に腰を降ろす。

――ああ、本当にバカなことをしたなあ。

 ほどなくして走り出した電車の窓の外を見ながら、ため息を吐いてそんなことを思う。
 昨夜、あんな行動を取らなければ、大樹クンの隣に座っている磯野をブン殴ってでも……大樹クンの隣に座って、楽しい帰り道に出来たのに。

 行き道と同じく。ヒマ潰しの道具も無いので窓の外を眺めるだけで時間が過ぎていく。

 背後の席では、小島がポーカーで勝ちまくっている歓声が聞こえてくる。
 何もすることも無いし、東京に着くまで寝ていよう……そう思って瞳を閉じた瞬間、いきなり私は声を掛けられた。
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