帰ってきたライオン
だから、三つの質問を羊君にぶつけることにした。
「絶対素直に答えて」
「いつも素直だけど。ピュアな心の持ち主だもん」
「だもんじゃないわ。ふざけないでよ絶対」
「なんだよ、そんな真剣になって」
「そりゃなるわ」
「いいよ、わかった。なんだよ」
まずは、週末の度にいなくなるのはどうしてなのか。
どこに行っているのかを聞いたら、返ってきた答えはびっくりするものだった。
「だって、週末まで一緒にいたらお前、あいつと何もできないだろ、だから俺は外で遊んで時間をつぶしてるんだよ。最初はあいつと一緒にいるおまえにムカついてたし、俺がいるのになんであいつなんだとか思ったけどよ、それって俺がいけないわけだし、それにそんなことする必要ねーなって思ったわけだわな。おわり。ああ、そうだ、それにあいつさ、」
「いいやつじゃん」
「……」
だから、俺もちょっとは見直してやったってゆーか、そんな感じで、だから週末はいないんだよ。
ムカつくけどな。
という一応羊君なりに気を使っての行動だったわけだが、気の遣い方が間違っているしそもそものポイントはそこじゃないと思う。
やっぱりただの自己中な……という思いに眉が下がる。が、何度も言うが、私がこんなに冷静なのは時間が経っているからで、これが付き合いたてほやほやでやらかされてたなら話はまた別な問題になっているだろう。
「でもそれってあまり意味ないよ。だって私と松田氏そういう関係じゃない」というと、逆にびっくりされた。
「は? ばかじゃねーの? お前らなんにもないの? 一緒にいて? 一緒にいるんだよな?」
「いるけど、ないよ」
「なんにも?」
「ない」
「何考えてんんだよ。お前だってまさかのあの……その……昔の約束……」
「……そういう約束もしたよね、覚えてないかもしれないけど。でもそれもう帳消しの方向で考えてるから気にしないで。それとはまた別の問題なんで」
「いやいや、キスくらいはあるだろ」
「ないよ、やめてよ」
「……まじか、あいつ本当に草食かよ」
「そうだよ。羊君とは違うんだって」
「そうは見えねーんだけどな」
「見えるよ」
「いや、あれはそんなんじゃない。目が違う。草食の目じゃないぞ」
一人ぶつぶつ言いながら顎を触る。
「とりあえずだ、その関係っておかしくね?」
「羊君に言われたくない」
「うん、だよねー。そうなるよね。でも、おかしくね?」
そもそも、あんたのおかげさまでこうなってるのに。
少しも焼きもち的なものはないのか。
「まあ、これからもあれだ、俺は週末はいないから俺のことは気にするな」と言い、
週末はどこにいるのかという質問に流れたら会社が借りてるマンションに戻っているということだ。
部屋もずっと使わないとダメになっていくものだから週末くらいは帰って家の換気をしているということだ。
掃除が好きな羊君だからきっと家の掃除をしっかりきっちりやっているんだろう。
そういえばちょっと前にぼろっぼろで帰ってきたことがあったがあれはなんだったのかをついでに聞くと、朝まで飲み屋で飲んだ挙句、持ち金すべてを飲み尽くし、しかもそこはぼったくり店。
飲みに行く席には自分の身元に繋がるものは何一つ持っていかないという羊君のポリシーのおかげで身元が分からず、結果、ぼっこぼこにされたということだ。
アホだ。
ただのアホだなと心で思ったけど、真面目にくやしそうな顔をしている羊君には言うことができなかった。