帰ってきたライオン
「俺もここに住む」
「「は?!」」松田氏と私の声がシンクロした。
「「バカなの?」」
「…………なんだよそれ」
直後、言葉を飲み込んだ。
羊君の口からとんでもないことが発せられた。
私の聞き間違いかもしれないからひとまず人差し指を両耳につっこんでみて耳の具合を確かめてみた。
松田氏がつっこんでくるかと思いきや、何も言ってこないのにびっくりして横を見れば、同じようにバカ面さげて口を開けている。
だよね、そうなるよね。分かる。
ということは今のは空耳でもなんでもなく現実。
「俺、今日からここに住むよ」
「……何言ってんの。羊君自分のうちあるでしょ」
「ないよ」
「ないの?」
「ない」
「ないの?」
「ないよ、いや、あるけど」
「じゃ帰りなよ」
「もう決めたし。いーじゃんきっと楽しいって合宿みたいで。それに俺だってここにいる権利あると思う」
「ないよ」松田氏の即答に、「おまえは黙ってろよ」と、噛みつく。
曰く、オーストラリアに拠点は置いてあるのでそこに荷物諸々は置いてあるという。
日本には仕事できているのでスーツケースひとつで帰ってきたそうだ。そして、その拠点はウィークリーマンション。
会社が契約している単身者用ウィークリーに住んでいるという。
日本に帰ってきたんだとばかり思っていたけど、ひとつの仕事が片付いただけで、その報告と次の仕事のミーティングも兼ねての帰国だそうだ。
「成田さん、なんかどうなってるのかよく分からないんだけど、どうなってるの?」
「いやいやいや、どうなってんのじゃねーわな、お前が出てけよ。大家にでも泣きつけ」
「何言ってんですか。だから俺、ここに住んでるんですけど」
「越せ」
「越せ?」
「今すぐ越せ」
「……越せってどういう意味ですか?」本気かわざとかつかぬことを松田氏は羊君にぶつけ、
「あんた、まじで意味わかんねえ」独り言を投げた。
松田氏は腕を組んでいる私の腕を更に強く組み直し、
「じゃ、ほら、よく分かりませんが、ほら、見えませんか? こういうことなわけでして」
「あっそうかよ。ふざけんなタコが」
暴言をはいて、なんたることか、ごろんと横になりやがった。
そして、リモコンを占領し、テレビをかちゃかちゃやりはじめた。
もちろん私たちは唖然としたことで間違いはない。