ベストフレンド
第2話

 翌日、女子高生と会ったコンビニに着くと、駐車場で男と一緒に待ち構えている姿が見える。無視してコンビニに入ろうとすると呼び止められ、仕方なく車の方に向かう。
「昨日あれだけ忠告したのに、普通に来るなんてアンタバカでしょ?」
「用件は?」
「えっ?」
「呼び止めた用件。何もないならもう行くけど?」
 強気な態度を変えない司を見て、女子高生は後ろに下がる。代わりに昨日見た五十歳くらいの男性が話し掛けてくる。その小太りな容姿からは不健康さが滲み出ていた。
「君が愛ちゃんを馬鹿にした子か。愛ちゃんは謝れば許してくれるって言ってる。素直に謝ったらどうだ? まあ、謝らないって言うならその方が僕は楽しめるんだけど」
 何か含みを持たせた言いようを聞き、司はゆっくりとした口調で切り出す。
「え~と、小田切豊(おだぎりゆたか)さんで読み合ってます? 後ろの彼女は都立南高校二年四組若宮愛美。十八歳の未成年に対する児童買春は、五年以下の懲役又は三百万円以下罰金。この場合、未成年であることの年齢について、年齢を知らないことを理由として処分を免れることは出来ない。ちなみに、若宮さんが話しているときから、ボイスレコーダーでお互いの会話は録音してますし、コンビニの防犯カメラでこの状況は録画されていると思います。何かご意見ありますか? 小田切豊さん」
 突然言い当てられる本名と語られる法律的な話を聞いて小田切は驚愕し黙り込んでしまう。愛美も詳細は分からずとも、こちらが不利な状況になっていることは雰囲気から理解している。小田切はしばらく司と愛美を見比べた後、愛美を置き去りにしたまま黙って車に乗り込み走り去ってしまう。残された愛美は呆然として走り去る車を見つめている。司は愛美に近づくと落ち着いた声でハッキリと言う。
「用件は?」
 鋭い目つきの司を見て愛美は何も言わず逃げるように去って行った。その日以降、夏休み中に愛美とは一度も会わず、夏休み開けの教室で会うことになる。教室で司の顔を見た愛美は驚愕した表情を見せ解かりやすいくらい動揺していた。
 学校をほとんどサボっていたことと、大人しい司がクラス内で目立たなかったこともあり、愛美は司がクラスメイトだとは全く気付いていなかった。逆に司はクラスメイト全員の顔と名前が一致しており、コンビニで見掛けたときから愛美と認識している。
 ホームルーム以降、気になっているのか司の方をチラチラ見て来るが具体的な接触はない。始業式が終わり教室に戻る途中、初めて声を掛けてくる。人気のない廊下まで誘われると愛美から切り出してくる。
「アンタ、クラスメイトだったんだね。全然知らなかった。えっと、やな、やなぎ……」
「柳葉司」
「そう、それ。アンタのせいで大きな金づる無くしたわ」
「で? 訴訟でも起こしたいの? 受けて立つけど?」
 相変わらずの高圧的な態度に触れ愛美は震えている。
「し、しないよそんなこと。アンタと戦っても勝てる気しないし。っていうかさ、アタシずっとアンタのこと気になってたんだ。最初はムカついてたし、怖さもあった。けど、同い年くらいで堂々と大人に渡り合ってたアンタを思い出して、凄いとヤツだと思った。小田切の名前とかどうやって調べたの?」
「コンビニの支払い時に小田切の財布から免許証の氏名部分が一瞬見えたから覚えてただけ」
「一瞬って、ホントアンタって凄いね。ぶっちゃけまた会いたいって思ってたからクラスメイトだと知ってビックリしてる。凄い虫のいい話かもしんないけど、良かったらアタシと友達……に、なってくれないかな?」
 意外な提案に一瞬戸惑うが、愛美の懇願するような眼差しを見ても肯定的な答えは一切出ない。
「友達にならない。貴女とは価値観が違い過ぎるし、一緒居ても私自身が成長出来ない。馬鹿やら死ねやら言われてるし、出来れば今後も話し掛けてこないで欲しい」
 淡々と言い切られ愛美は解かりやすいくらいの態度で落胆する。
「だよね。アタシの第一印象悪すぎだし。うん、ごめん。分かった、もう話し掛けないし関わらない。ダメモトで聞いてみただけだし。じゃあね」
 初めて見る愛美の笑顔に少し心動かされるが、無表情で愛美を見送った――――


――翌日、図書館通りを帰宅していると、道沿いのコロッケ店で見慣れた男子を見つける。相手も司に気付いたようで手を挙げる。
「こんばんは、柳葉さん。図書館の帰り?」
「ええ、雪村君はお使いかしら?」
「いや、俺ここでバイトして今上がるとこ。あっ、ちょっと待ってて」
 一言残すと祐輔は店の裏手に入っていき、間もなく白い紙に包まれた熱々のコロッケを差し出してくる。
「熱いうちにどうぞ」
 受け取るかどうか一瞬迷うが、店長らしき人物が店内から見ており素直に受け取らざるを得ない。
「ありがとう」
「店員特別価格、一個零円だから気にしないでいいよ」
 笑顔で言う祐輔を司は無表情で見つめる。
「あっ、もしかしてコロッケ嫌いだった? もしくは急ぎとか?」
「いえ、コロッケは好き。強いて言えば早く帰宅して勉強したいくらい」
「ごめん。歩きながらでいいから少し話せる?」
「ええ」
 はしたないとは思いつつも、祐輔と並んで歩きながらコロッケを頬張る。勉強後の空腹でかつ、熱々揚げたてのコロッケを目の前にして我慢することなど流石にできない。熱さと味を楽しみながら歩いていると、祐輔が話し掛けてくる。
「柳葉さんって夏休みの間も図書館通ってたよね? 将来は医者か弁護士か、って感じ?」
「いいえ、まだ将来については考えてない。方向性はぼんやりとは見えてるけど」
「そっか、ところで、柳葉さんって若宮さんと仲いいの?」
 突然出た愛美の名前に少し戸惑う。
「いいえ、どちらかと言うと仲は悪い方ね。どうしてそんなこと聞くの?」
「いや、他意はないんだ。ただ、愛美……、若宮さんがヤバそうな大人とつるんでるのを何回か見たことあってさ。もし友人なら忠告してもらいたいなと思って」
 名前を言い直した祐輔を見て司はピンとくる。
「なるほど。でもそれは私じゃなくて、雪村君の役目じゃないの? 若宮さんとどんな関係かは知らないけど、ただのクラスメイトではないんでしょ?」
「やっぱバレたか。アイツとは幼なじみなんだよ。母子家庭だったんだけど、昔は素直でイイヤツだった。でも、中学生くらいに母親が金持ちと再婚してから別人のように変わったよ。今でも再婚した親とは上手くいってないんだろうけど、なまじ金持ってるだけ人に対して冷たくなって孤立して行ってた」
 司自身の身の上と被る部分が出てきて、身につまされる心地になる。
「アイツ、父親を知らずに育ったからか、年上の男に頼る側面があるんだ。最近も変なオヤジと歩いてたし、凄く心配だよ。事件か何かに巻き込まれないうちに、昔の愛美に戻ってくれたらと思う」
 祐輔の想いに触れ、愛美に対して特別な感情を持っているであろうことを推察する。
「昨日も愛美と柳葉さんが廊下で話してるのを見て、アイツにもやっと友達が出来たんだと勝手に思った。でも勘違いだったんだな」
「ええ、残念ながら友達ではないわ」
 愛美と祐輔の関係を推察しつつ並んで歩いていると、例のコンビニ前で愛美を見つけた。小田切と揉めているのか無理矢理手を掴まれているように見える。
「雪村君、駐車場の隅で若宮さんが襲われてる」
「えっ!?」
 祐輔は愛美の姿を確認した瞬間、走って助けに行く。司は携帯電話を取り出すと冷静に警察へと通報した。

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