黒毛のアンと僕。
大河原さんは有名人なので(本人には絶対に自覚がないと思うけど)、大河原さんが出没したという情報は、色んなところで耳に入ってくる。





大河原さんの目撃情報は、主に、大学の最寄り駅にある古本屋街に集中していた。




大河原さんは、古本屋を一軒ずつ回っていき、何時間でも本を物色するらしい。





いま読んでいる本も、日焼けして黄色く色あせた、カバーがぼろぼろになっている、いかにも古そうな本だ。






「大河原さん、なに読んでるの?」






…………そんなふうに、軽い感じで声をかけられたらいいのに。




せっかくこんなに近くに座れたのに、僕はどうしても勇気が出なくて、やっぱり横目で見ていることしかできない。





僕がこんなふうに臆病者だから、いつまでたっても、大河原さんと話をすることさえできないのだ。






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