詐欺師の恋



「何の事だよ?お前、そんなに有名人なわけ?」


からかうように笑えば、空生は伏し目がちになって、床を見つめる。


短いような、長いような、沈黙。


やがて―


「俺の母親さ、死んでんのは知ってたんだけど―殺されたらしいんだよね。しかも、同棲してた男に。結構でかい事件だったらしくて。」



嘲笑うかのように、話し出す。


彼は雄弁ではない。


こんな風に自分のことを話すのは、珍しかった。



「詳しく調べる気なんか、俺には更々ないんだけど。周りは調べんのな。ま、当たり前か。得体の知れない人間なんか、雇わねーよな。」



つまりはそれくらい。



「俺、生きてる意味、あんのかな。」



自棄になるくらい。



心が痛みで麻痺してしまっている、ということだ。




「…それって、全部お前の母親のせいだろ。」



暫くして燈真は、空生にある提案を持ちかける。



「母親に、復讐してやれよ。」


< 12 / 526 >

この作品をシェア

pagetop