詐欺師の恋
疲れ切った顔?

少し、息切れ?


その目は…怒ってるの!?


どんどん近づいて来る中堀さんが、何をしたいのか、私にはわからない。


それは客達も同じらしく、会場は少し騒ついている。




こ、恐っ!


私、何かしたっけ?!


さっきのこと?!

確かにさっきのことみたいに感じるかもしれないけど、もう数時間も前のことだよ?!更に言わせてもらえば、昨日のことだし去年のことだよ!



私は慌てて踵を返し、会場から出ようと試みる。




その瞬間。





「花音」





名前を呼ばれたと同時に、後ろからふわりと抱き締められた。





きゃーとか、いやーとか、そういう黄色い声が幾つか聞こえた気がするけど。



私を包む、甘い香りが、それを感じさせなくする。






「なっ、中堀さ…」




「名前を呼んで」






耳元で、囁かれた言葉に。



「っ…」




あっという間に涙が溢れた。








「花音」







繰り返される、自分の名前が。




何の変哲もない、生まれた時から呼ばれている名前が。




今日初めて、息を吸い込んだみたいに聞こえる。





「あ、空生…」




貴方もそうだろうか。




同じように、思うだろうか。




「空生」




私がもう一度小さく言えば、中堀さんが、後ろでふ、と息を吐いた。















「俺…あんたのことが、好きなのかもしれない。」

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