詐欺師の恋
すれ違いと偶然と

一週間もすれば、噂はあっという間に社内に広まった。



内容は、憲子経由で直ぐに知ることができた。





要するに、中堀さんが私の兄ではないことが明るみになったおかげで、以前の噂が再浮上したのだ。





つまり、宏章に振られた次の日に、もう新しい男ができていたと。




お騒がせな阿呆鳥の櫻田の相手の話は、酒のつまみになる。





その上、人の不幸は、蜜の味と言う。




つまらない社会生活において、この手のものは憂さ晴らしの玩具だ。






「ほーんと、男ったらし」





化粧室に入れば、これ見よがしに言われてしまう。



目線が交わらないのが性質が悪い。




まるで、私なんて居ないかのように振舞って。





「自分が非難されるのが嫌で、適当な嘘吐いちゃって。こんな女、佐久間さんも別れて正解よ。」





「ま、どーでもいいけど。社外出ただけ、マシでしょ。」






こそこそ、ひそひそ、チラチラ。




「あ、あれだよ。名前、なんだっけ?なんにでも付いてく馬鹿な…、アルマジロか!」







違うって。




歩いていれば、指を差され、背後から聞こえる声に思わずツッこむ。





しっかし。





脱力しながら更衣室に入り、後ろ手で戸を閉めた。



ラッキーなことに、誰も居ない。



―出所は一体誰なんだろう?



自分のロッカーに寄っかかって、腕を組み考える。




いつもは、色んな目撃者がそれぞれ話して、それが団子状に増えていって全く違う作り話になっていく。



だが、今回は。



憲子の話しによれば、中堀さんの悪い噂(詳しくはまだ知らない)もあるようだから。



どこまで本当かはわからないけれど。



少しは、中堀さんのことを知っている人間ということになる。

< 227 / 526 >

この作品をシェア

pagetop