詐欺師の恋
新緑の季節。



行楽日和のこんな週末は、電車の中でも和やかな雰囲気が漂う家族連れが目立つ。





私ひとり。



置いてけぼりを食ったかのような、空しさ。



そして、すごく嫌な感じ。



つまり、憂鬱。




端っこのすかすかな車両に乗り、空いている座席に座ることもせず、扉脇の手摺に寄りかかって、流れる景色を空っぽな気持ちで見つめた。





何にも考えなければ、何も思わずに済む。



そう自分に言い聞かせてきた。




でも、今日は。






今からは。






ちょっとだけ、考えなくちゃいけない。








「昼からだとちょっと変な感じ。」






定期を使って会社の最寄りの駅で降りると、会社とは反対側の道を行った。





夜になると、ぴかぴかと光る繁華街は、今、静まり返っている。



ゴミなどが散らばっている道路は、どこかしら、現実感を漂わせているような気がした。






―やばい、緊張してきたな。




去年の冬から足が遠退いていた看板を目の前にして、私はごくりと唾を飲み込む。





灯りの消えたネオン。



押しても開くことのないNotte di Lunaの重たい扉を。



ぎゅっと握った手でノックした。




< 506 / 526 >

この作品をシェア

pagetop