詐欺師の恋
「でも、花音さ、キャラ違うよね。いつもは男を手玉に取るような感じなのに。やっぱり、本気で好きな相手だと違うのかなぁ」




憲子は感慨深げにそう言うと、ブロッコリーをかじった。




「んー…そうなのかなぁ。なんか中堀さん相手だといつも不意を衝かれるんだよね。否応無く素でしか居られないっていうのかな。」




私も熱いドリアをかきませながら、しみじみ呟く。






「…だけどね…」





「…?何よ?」






言い淀む私を見て、憲子が首を傾げた。





「うん…当たり前の事が、中堀さんにとっては、辛いことなのかなって。」





「どういうこと?」





「中堀さんのことを知ろうとすると、近づいたと思った距離が離れていくような気がするの。」





かき混ぜたドリアから立つ湯気が、透明な空気を濁らせた。




何故だろう。



私はちゃんと、詐欺師じゃない中堀さんのことが好きだと思ったし、知りたいと思っている。




なのに。




掴めそうで、掴めないのは、どうしてなんだろう。





「あ、花音、携帯鳴ってるよ。」




スプーンを片手に持ったまま、ぼんやりする私に、憲子がそう言った。




「え、あ、本当だ。」




脇に置いた鞄からバイブが響いている。




整理整頓されてない私の鞄を引っ掻きまわして漸くお目当てのものを見つけて、慌てて取り出すと。






「………」





表示を見て一瞬固まるが、直ぐに通話ボタンを押して出た。





電話の相手は、タカだった。

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