Baby boo!


「でも、そんな人と彰人さんは結婚しようとしてるんでしょ?」

「一緒に暮らせるのかって?」

「うん」

「俺の壮大な計画を教えてやろう」

「壮大な計画?」

「あいつは結婚しても仕事を辞める気はなく、通勤の都合上、京急沿線から住居を変えたくないようでな。まぁこっちに引っ越してもいいと言われたんだが、お互い仕事が忙しいし、しかも勤務時間が不規則で昼夜関係ない。それを理由に体よく断り、なるべく結婚生活に余計なストレスを感じないようにってことで、住居は別にしてお互い休みの日だけ一緒に過ごそうってことになっている」

「別居婚ってこと?」

「そうそう、仁菜のくせに難しい言葉を知ってるじゃないか」

「同じ都内に住んでるのに、変なの」

眉を寄せておかしいと言う仁菜。

「まぁ仁菜には分からないだろうけど、大人には譲れないライフスタイルっていうものがあるんだよ」

「分からないなぁ、結婚てそういうのをお互いに譲り合っていくことじゃないの?」

「それはちゃんとお互いのことを想い合っている者同士の話だろ。俺達は違う、社会的な結婚っていう奴だよ。年齢重ねて独り身っていのは体裁悪いし、まぁ外科部長の娘と結婚しとけばこの先何かと仕事しやすくなるし。まさに一石二鳥っていうか。しかもあいつと休みが被るのも月にせいぜい3回程度。誰かと一緒に住まなくて済むっていう、その点に関してもあいつはまさに都合の良い相手なんだよ」

そう語る俺に、まるで大人の汚いところを見てしまったというような顔で軽蔑の目を向けてくる仁菜。

「それ、相手の人は納得してるんですか?」

「してるよ、さすがにお前は一石二鳥なんて説明はしてないけど。だから頼む、お前も早く出て行ってくれ。そして俺の静寂を返せ」

「……寂しい人」

ボソっとそう言って哀れみの目を向けてくる仁菜の顎をギリギリと掴んで聞き直す。

「何だって?」

「痛い、痛いっ。彰人さんの馬鹿力っ!」

「皆が皆、お前が読んでるようなベタな少女漫画みたいに、まともな恋愛できると思ったら大間違えなんだよ」

仁菜の年頃の女の子からしたら自分はそんなに寂しい人間に映るのだろうか。
恋愛できない、むしろする気にならなくて何が悪い。仕事は真面目にしてるし、社会に多いに貢献している。

仕事と恋愛以外のプライベートだけ充実してればそれでいい。一人で好きな時にふらりと箱根温泉に行ったり、ふと思い立った時に飛行機に乗って弾丸旅行に出かけたり、そんなこと相手がいたら自由にできないだろう。そんな悠々自適なマイライフを尊重することの何が悪いというんだ。

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