恋愛の神様

        犬飼亜子



※※※ako inukai※※※

時は少し遡りて―――




応接室の扉が開いて、商談を終えた二人が部屋から出てきた。


「専務、ランチご一緒しませんか。」


そうやって声を弾ませるところは小娘、そのまま。

阿藤建設のお嬢様は自分の魅力を存分に熟知して、可愛く小首を傾げて上目遣いで『専務』を見上げる。

カレが承諾して、飛び跳ねるような彼女と去って行った。

あくまでも二之宮専務の顔―――だけど、私の心中は穏やかではない。


ねぇ、少しぐらいは言い訳したらどうなの?
言い訳しないのは、全く疚しい事がないから?
それとも噂が本当だから?


聞くのが怖くて、私からは連絡してない。

それでも、ひょっとしたらカレから何か連絡が来るかもしれないと、気が付いたらいつも携帯を気にしている。

しかし、一向に連絡はないまま。

でも……実際連絡が来たら、私はきっと怯えるわ。

一体どんな話をされるんだろうって―――鳴り続ける携帯がまるで時限爆弾みたいに―――息を顰めて鳴り止むのを待つのだろう。


総務課へ書類を届ける途中、歩きながら鳴らない携帯を見下ろして溜息を吐いてポケットへしまった。



最近はレオからの連絡もない。

その事にほっとしている半面、ちょっと寂しいと思う自分が否めない。

レオは現在、支店であるブライダルの仕事を任されて、ほとんどそちらに出勤している。

フェアの企画が仕事の主旨だけど、実質は派遣要員並みに労働に従事しているようだ。

式の入り様などでそちらの仕事が手薄な時は本社に出社し、企画を煮詰めたり、本来の仕事を片付けたりしているみたいだけど。
ともかく多忙を極めている。

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