恋愛の神様

何がいいもんですか。
タツキさんがマネジャーを降りるかもしれないんですよ?
それを知らないまま見送ってよろしいんですか?
良い訳ないです。

そう怒鳴るつもりで顔を向けると、ハクトさんはまるで状況の分かってなさそうな無邪気さで言いました。


「いいんだよ。タツキが、僕が知らなくてもイイって言うんだから、知らなくてもイイ事なんだ。」


ワタクシは色々な意味で言葉を失いました。

なんて危機感のない太平楽な人なんでしょう。
ピュアとは聞こえがよいですが、ボケと紙一重です。
このお歳で、こんなんで大丈夫なんですか?

それはともかくこの盲目なまでの信頼感。

まるで雛鳥が母鳥に寄せる絶対的なモノです。

例えばそれが鬼であろうと蛇であろうと―――タツキさんがやんごとなき理由でその命を奪いに来ても、この人は最後まで信頼を揺るがせないのでしょう。

その確信は一体、どこから来るのですか?

唖然とするワタクシを余所にタツキさんはほら見ろとばかりに顎を聳やかします。


「これで分かったわね。余計な事言ったらただじゃ済ませないから。……そうね、ピーの焼き鳥なんてどうかしら。それともから揚げかしら。その柔らかいお肉なら食べ甲斐があるわね。」

「くっ……タツキさん、根性悪です……っ!」


意地悪く煌めく瞳にワタクシ本気で傷つきましたヨ!

脳裏に先ほど見ていた通販のキャッチコピーをチラつかせながらワタクシは悔しさに拳を握りました。





ええい!

恋愛の神様だって、天の邪鬼さんと天然なんかに構ってられますかってんです!

それより、ダイエットして魅惑のボディーラインをゲットですとも!!


< 235 / 353 >

この作品をシェア

pagetop