恋愛の神様



僕の母親はロクデナシだ。

人伝に聞いた話によると、だけど。

男好きで、とっかえひっかえしていたらしいけど、男の趣味も相当悪かったらしい。
チンピラかぶれの成金だとか、詐欺師手前の落ちぶれたホストだとか…。

そんな調子なので、父親というものは端っからいなかった。ようだ。……これも記憶がないから人から聞いた話だけど。

母親の興味のあるのは男と金。

その何分の一も僕になんか興味を示さなかったみたいだ。

そのくせストレスがたまった時だけは僕を思い出し暴力を奮っていたとか。

……まぁ、聞き様によっちゃスゴイ悲惨だけど、記憶がないから他人事だね。


ある日、その当時付き合っていた男と決定的な喧嘩をして、アノ人にしてはかなり入れ込んでいたのかな……発作的にベランダから飛び降りた。
即死。

通報で警察が掛け込んで来て、僕を発見した。

僕はベランダに座って歌を歌っていたんだって。

悲壮感もなく、場違いな程呑気にひたすらに。



母親の事はまるで覚えていないけど、鳥の言葉で一つだけ思いだした。


『綺麗な声………』


鳥の前にも誰かが僕にそう言った。

アレは多分―――母親だったんだろう。

僕にまるで関心のなかった母親。

思い出した時だけ殴る母親。

だけど、そう言った声はとても静かな印象があって、ひょっとしたら、唯一僕の歌だけは気に入っていたのかもしれない。


そんなだから、もう死んだのに歌に惹かれて戻ってきちゃったのかな……


鳥を見てそんな事を思ったら、それが本当の事のように思えてきた。

< 249 / 353 >

この作品をシェア

pagetop