恋愛の神様

     草賀零於




※※※reo kusaga※※※



建物を出た途端、冷たい風に全身を撫でられて、俺は首を竦めた。

今日の出勤先はブライダルで、今、終わった。一応、今から本社に戻って仕事をするつもりだけど。

野山の代わりに同じ課から後輩が一人宛がわれて、仕事は可も不可もなく進み、本番へ向けての準備は本職の奴等が主だって動くため、俺達は面目躍如といったトコロだ。

企画は丁寧でイイ感じに纏められていると概ね好評価だが、野山の斬新な発想企画を期待していた鹿島支配人は目に見えてがっかりしていたのが分かるから、少し惜しい。

ま、大本は野山の残していった企画なんだけどな。


歩きながら冷たい空気に白い息を吐く。

野山が消えてから既に数週間が経過した。

一度行った事のあるアパートにも何度か足を運んでみたが帰ってきている様子もなく、携帯も依然繋がらない。

部長の方も何気に探りを入れているようだが、そちらの成果も上がらず仕舞いのようだ。


あれから、亜子とも会ってない。

これまで俺は会えなければ苛々して渇仰して、躍起になって気を引こうとしていた。

だが、今はまるでそうする気が起きない。

あんなに入れ込んでいた筈なのにまるで憑きモノでも落ちたみたいだ。

野山に付けた傷が大き過ぎて、罪悪感の分だけ亜子と距離が開く。

そうして距離を開けてみれば、燻ぶるような熱ですら少しずつ冷めていくのが自分でも分かる。

俺にとって亜子って存在は一体なんだったんだろう。

俺は亜子を本当に愛していたんだろうか。

呑み会で見知らぬ女を引っかけるのは、男のプライドを賭けたちょっとしたゲームだ。

亜子もそれと同じように、簡単に自分に靡かない女だったから無理にでも振り向かせたくなったんだろうか。

亜子が見詰めているのが虎徹だと知っていたから尚更躍起になって……。

亜子が弱い女だという事を知っているからあんな事をしても唐突に嫌悪を抱く事もないけれど、亜子に感じていた飢餓感は徐々に薄くなってゆく。

失恋と言う程の衝撃もなく、それでも確実に溝なのか、距離なのか、壁なのか、隔たりが出来上がって。

きっと今は会ってもお互い言葉がない。

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