恋愛の神様

剣呑な膠着状態に、更なる闖入者の声が轟いた。


「シロッ!!」


見れば、路上にバンを停めて、一人の少女が駆けてきた。

整った顔立ちの正当派美人だが、意志の籠る強い双眸の中々気の強そうな娘だ。

俺に物怖じしなかった野郎が、突然現れた小娘には明らかに戸惑い、首を竦めた。


「……だって…ピーが…」


叱られた子供みたいに愚にもつかない言い訳を口籠る。

いや、そうなる気持ちはわからんでもない。

間近に迫った少女は、その歳に関わらずとんでもねぇ威圧感を放っている。

腕の中の野山ですら何やら怯えて挙動不審だ。


「ともかく車に乗りなさい。」


少女は犬にでも『ハウス』と命令するように、いかめしい顔でバンをしゃくる。


「でも…だって、ピーが…」


泣きそうな顔でそう言い募る男に、少女は溜息を吐いて、野山に視線を移した。

途端、野山がビクッと飛び跳ねた。


「戻りなさい。」


静かだが有無を言わさぬ威圧感。

野山は震えてるみたいにぶるぶると首を横に振った。


「い、嫌です!」

「あっそ。」


野山の断固拒否の構えに、少女は意外にもあっけない程あっけなく諦めた。


「そんなぁ……タツキィー…」

「ウルサイわね。アンタはさっさと車に乗るっ!」


ビシッと言いつけてうろたえる男を力づくで車へ促す。
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