恋愛の神様


「……ひょっとしてタツキさんが!?」


拾われたその日、車の中で携帯を奪われて、何か操作していたのはこれだったんじゃないでしょうか。


「タツキってのは、さっきのお嬢ちゃんか。」

「えぇ、はい。」

「あー……なんか、やりかねねぇカンジ…」


ワタクシは慌てて携帯を取り出し、案の定、着信拒否に設定されていた草賀さんのアドレスを元に戻しました。


「す、…スミマセン、でした…」


草賀さんはちゃんと心配してくれたのに、勝手に疑って拗ねて、薄情者の濡れ衣を着せてしまった事を深く懺悔しました。

草賀さんも状況を呑みこんだようで怒りは也を顰め、疲れたみたいに溜息を吐きました。


「オマエが謝んなよ。そもそも俺の所為なんだろうし……。」


そう言われて、心臓がぎゅっと軋みます。

脳裏に仲睦まじいお二人の姿が思い浮かびました。

ワタクシの顔が歪んだのに気付いたらしい草賀さんが阿るように優しく言いました。


「それも含めてちゃんと話したいから、中入ろ?」


―――ちゃんとお話

これから決定的な最後通牒が渡されるのかと思うと、足は錘が付いたみたいに動きを鈍らせます。

それを草賀さんが溜息を吐いて連れて行こうとした時、手の中で携帯が鳴りだしました。


こんな時に………天の助け!?


んなの、今はほっとけ!と唸る草賀さんを無視してワタクシは藁にでも縋る遭難者みたいに携帯に飛びつきました。


しかし、相手は天の助けではなく悪魔の遣いだったようです。

< 272 / 353 >

この作品をシェア

pagetop