恋愛の神様

  野山小鳥




※※※kotori noyama※※※



月曜日です。
ワタクシは這う這うの体で出社しました。

草賀さんの忠告通り身体が死ぬほどイタイです。
そしてダルイ。

週末、ワタクシはこれまでの人生にない怠惰な享楽に耽って過ごしました。
とはいえ草賀さんがワタクシの身体を気遣って、無茶を強いてこなかったのは明白です。
さすが草賀さん。
その辺に転がっている男と違ってガッついてませんね。

しかし、初心者にして生来脆弱なワタクシの身体にはかなり負担だったようです。

それにしても、今思い返してみれば、ラブラブカップルの様な休日じゃあありませんか。

こんな日がワタクシに訪れようとは誰が予想したでしょう。




心持だけは煩悩で薔薇色になりながら重い体を引き摺って事務所を目指していますと、不意に脇から不穏な視線に射抜かれました。

む?
これはハンターの目!

同種の匂いを敏感に嗅ぎつけ、視線を向けまして、ワタクシは大いに引きました。

事務所に程近い廊下の片隅に、男が一人居りました。

歳の頃は四十後半でしょうか。
なんとも厳つい巨躯で、場所が場所なら死んだふりをしたことでしょう。

なるべく目を合わせないようにして廊下の隅を歩いて行き過ぎようとしましたら、後ろから「おい」と野太い声が追ってきました。


「人違いです。ワタクシ貝殻のイヤリングなど落しておりません。」

「何を言ってやがる。……オマエ、野山小鳥だな。」


はい、とも、何故私の名前を?と応える間もなく、ワタクシは男にガッツリ掴まれました。

北海道の土産の鉄板、木彫りの置物ですか、ワタクシは!
無論、捕獲された鮭の役です。


小鳥、一羽、ケータリィィィングゥ――――――!?


問答無用でズルズル引き摺られながら、ワタクシは内心で絶叫を迸らせました。

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